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月見草10

少し歩いたところに、昨日は通らなかった小径を進むと
レトロな雰囲気の渋い喫茶店があった。
君はよくここで休みの日をのんびり過ごすらしい
確かにとても駅前とは思えないほどの、静かな喫茶店
名前もまたセンスがある

「珈琲の樹」

入り口の窓際には数々のカップが並んでいるのが外から見える。
店内には程よい外の太陽の灯りが、ベストな角度で入ってくる。
君のお勧めを聞いた。

ハワイコナが美味しいらしい。
注文した。
酸味があって個性的な味がした。
二人の会話はもう不自然さはなかった。

君の育った場所の話とか、郡山の話。
君が育った場所は、郡山だけど少し離れているらしい
郡山からは電車では25分ほど、でも周りはかなりの山の中だって言ってた。

「わたしの事ばかりでなくて、ゆうやくんのことももっと教えて」
とても気配りのできる人で、相手の事を考えられる、素晴らしい人だった。

今さっき1時間ほど前に初めて逢って、まだほとんどお互いを知らないのに、
もう何度目かのデートのように、自然な感覚の会話の間があった。

話しながら、ふと思った。
とても良い感じだから このまま付き合えるといいな。 いや、これはもう絶対に付き合いたい。
2時間ほど過ぎたころ、なんの矛盾もないほどの自然さで僕に言った。

「そろそろ、お家もどろっか?」

期待はしていたというより、そうなればいいなと思ってた。
もしかすると、空が暗くなり始めて、じゃあ またいつか会おうねってなり
僕は一人でまた遠い道のりを帰る。 それでも仕方ないと思ってた。
初めて逢ったばかりで、家に行けるなんて不可能だよね、普通に考えると、
でも、はっきりと聞こえた。

「そろそろ、お家にもどろっか?」

恋人同士のような会話に、夢なのかと疑うような時間が流れた。

タクシーに乗り、君の家に到着。
1DKくらいの間取りに女性らしい綺麗でオシャレな部屋。
もうコタツが置いてあった。 東北の冬は早いんだね。

「ゆっくりしててね。ごはん作るからちょっと待っててね。」

君の背中、まな板のリズム音、テレビの音、時々僕に話かける君の声
幼い時に家庭を失った僕にとっては、こんな時間がどれほど欲しかったか、わかるかなぁ
欲しかった。本当に本当にこんな時間が欲しかった。

やっと、その時が来たように感じていた。

TVは地元の地域紹介番組。明日に駅前の大きなデパートがオープンするらしい
うすい? 関西、関東では聞いた事がない名前のデパート。

地元では有名なデパートなんだと教えてくれた。
勝手に自分の事とつなげて考えた。こんな大イベントの日に君のところへ来れるなんて
やっぱり何か大きな縁があるんだろうと。 そう思い込みたかったんだろうね。

とても家庭的なごはんを作ってくれた。
お味噌汁に焼き魚。
君はインスタントカメラを持ってきて。コタツの上に並ぶごはんと、僕に向ける。
数分でそのフィルムから、幸せすぎる顔をした僕の笑顔が現れた。
今でも持っているよ、その日のインスタント写真。

ごはんを食べ終えて、ゆっくりTVを見ていると
いつの間にか、18時を過ぎていた。

じゃあそろそろ帰るねって言ったほうがいいのか、、悩んだ。
早く帰れよ、、って思われてるかもしれない。
遠くから来てるから、なかなか君も言い出しにくいよね、、きっと。
そんな時、君は一言。

「今日、帰らなくても大丈夫だよね? 一緒に見たいビデオがあるの。。」

確信した。僕は今日ずっとここにいてもいいんだと。 叫びたくなるほど嬉しかった。
純粋に君と1秒でも長く一緒にいたかった。不純な気持ちはほとんどなかった。

窓の外は少し黄金色に染まったあと、深い深い青い色に変化していた。
夜が間もなく訪れる。

夜は昼とは全く違う世界。 街の雑踏も消えて。
君の声しか聞こえない位の、二人だけの時間が訪れる。

もっと君の事を知りたい、そして僕を知ってほしい。
眠る時間ももったいなく思えた。一晩中でもいいから 話をしたかった。

そんな時、チャイムの音が鳴る。




月見草09

11月2日
初めて君と会う日の朝

眠れなかったから目の下が腫れぼったい。
シャワーを浴びて準備をした。
少し落ち着いていた興奮状態は、時間が近づくたびに再び激しくなっているのがわかる。

10時にチェックアウトをして、駅中のカフェでコーヒーを飲む。
色々な不安がココロを過っている。

会った瞬間、やっぱりちょっと無理ですと言われるかも。
急用が出来たから、やっぱり会えない とか。。
君が待ち合わせ場所まで来たけど、タイプじゃないからそのまま帰って、もう連絡来ないとか。
そんな悪い方向ばかり考えていた。
でも、何度か話をした雰囲気からは そんな人には見えない。
きっと会えるだろうと信じていた。

本当は今日郡山に着く事になっているけど、実は昨日から来ていた
でもこの事は話さないでおこうと決めている。
ただ少しサプライズしたいと思っていた。

君が駅に来る前に、君の家まで先に行こうと考えた。
住所はすでに教えてもらっていた。
12時に駅の改札で約束だから、たぶん30分前くらいに出発かな。。
11時に君の家に行こうと考えていた。そして君がマンションの前に出てきたところを驚かせる。
そんなサプライズの作戦を考えた。

10時になった。
僕は地図を頼りに君のマンションへ向かう。
真っ青な空、少し冷たい風が本当に心地よかった。
駅から君のマンションまではとてもわかりやすい道で
ほとんどまっすぐ。
一つ橋を越えて右へ曲がると、そのマンションは見えてきた。

この時、僕のココロは最高の緊張と、最高の嬉しさにミックスされた
なんとも表現できない色彩の色に染まっていた。
そんな気持ちが空の青色と川に流れる水の音が、
忘れられないあの日のあの時間を、胸の中にずっと焼きつく事になるなんて、
この時は思ってもみなかった。

すぐに君のマンションに到着した。
住所は聞いていたから、このままドアホンを押しても問題はないと思うけど、
まだ君の事はほとんど知らないし、勝手に来た事で何か大変な問題が発生することも考えて
チャイムは押さずにそのまま少し待った。

わずか15分後に君は外に出てきたんだけど、数時間も待ったような気持ちになったのは
この時が最初で最後だったかもしれない。

一台のタクシーがマンションの前に止まった。
そのあと2、3分後に、君が出てきた。
タクシーに急いで乗り込もうとしていたその時
僕は
「ちょっと、待って!」

君は何が何だかわからないような表情が5秒ほど続いたあと、その顔はすぐに笑顔に変わって
タクシーを降りた。

「ゆうやくん!?」

君はタクシーの運転手さんにちょっと待ってくださいと一言つたえて再び僕を見た瞬間
なんだか時間が数分ゆっくりとスローに進む感覚だった

「はじめまして、、かな。」と僕は挨拶した。
「はじめまして、、ですね。」と君は言った。

緊張する二人の間にふっと、先の風が流れた瞬間。
何か魔法が解けたように、自然な二人の会話が始まった。
緊張はもうなかった。幸せすぎる感覚だった。

君は、
「駅前に良いコーヒーショップあるから、今から行こうよ!」

さっきまでの僕の心配は全部風と共に流れていった。
君の笑顔と、少し興奮気味な様子を見ていると、
僕と出会った印象はそんなに悪くないと感じた。
でもまだ安心できない。せっかく遠いところまできたから
1日だけ付き合ってあげるか、と思われているかもしれないしね。

でも、そんなことはいい。 やっと会えたんだ。
タクシーの後部座席、車が曲がるたびに肩が触れ合う。。
そんな距離にいるんだ。

とても綺麗だった。 写真の数十倍綺麗な人だった。
僕は期待した、このまま発展できれば幸せかもと少し思った。
君の表情も話し方も、その優しすぎる瞳が
とても良い人なんだろうなと思った。

タクシーを降りた場所は、さっきまで宿泊していたホテルの目の前だった。
この街にさっききたばかりのふりをして、郡山の街の事を聞いた。



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月見草08

よく眠れなかった。
以前から仕事で色んな街へいってホテルに泊まっていたので
普通はすぐに眠れるんだけど、今日はさすがに寝むれない。

夜中に少しまた散歩してみた。

以前中学生の頃に、夜中にどこか遠くに行きたくなって、
ずっと国道沿いを歩いた事があるのを思い出した。
少し疲れた頃に途中のマンションの5階で、遠くまで見える夜景を
ずっと眺めていた事がある。
無数に散らばるひとつひとつの部屋の灯りが、とても幸せそうな家庭の灯りに見えて
俺はなんで、こんなに一人きりなんだろうと思った事があった。
その頃はすでに家庭は最悪な状況だったので、おそらく遠くへ誰も知らない街へ
行きたかったんだと思う。途中で見た街の灯りに、羨ましさを感じていた。
今からあそこの部屋に行ったら、俺を優しく迎え入れてくれるだろうか、、なんて
13歳の俺は少し悲しい時期を過ごしていたことがあった。

近くのマンションから鍵のかかっていない自転車を借りて、
そのまま東へ東へ走り出した。
途中でパトカーに止められ、職務質問される。
こんな時間に何をしてるの? 自転車は君の?
ちょっとイライラして散歩と答えた。やばいと思った。
自転車の事よりも親に連絡すると言われると面倒だと思った。
説明が面倒だからだ。親はいないというと、きっと嘘をつくなと責められるだろう
本当だから、じゃ家に電話すればええやん? 電話すると本当に出ない
どこにいるのかちゃんと伝えなさいと言われる。だってどこにいるかわからないもんをどうやって
教えるねん。。じゃあ他の親戚は? などなど、面倒になる。

だから、

俺の自転車やけど。と演技力には自信があったので、アカデミー賞もんの演技で冷静に答えた。
家はどこ?さっきのマンションの住所はあらかじめ覚えておいたので答えた。

早く帰らないとまた他のお巡りさんに止められるよと注意された。
素直に答えると、パトカーは走り去った。

当時はまだ今と違って、緩いというより、地域の警察官も住む人も信頼があったのかもしれない。
今は良い意味でも悪い意味でも、その信頼がなくなっている。

その自転車また同じ場所に返した。午前5時だった。
少し遠くへ逃げ出したかった一晩があったことを思い出した。

たいして良い暮らしではないけれど、
あの頃よりは少しまともな生活をしている。
あの頃にはここまで遠くへ来れなかった無力さがあったけど、
今は、こんなにも遠くまで一人で来れるくらいには成長した。
ひどかったあの頃の自分と比べていた。

ホテルへ戻った時は、少し空が明るくなり始めていた。
もう寝れないなと諦めて、朝早いテレビのニュース番組を見ることにした。

あと数時間で、君に初めて会える。
窓の外には、待ち合わせ場所の郡山駅が見えている。




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月見草07

駅前のロータリーで立ち止まる。
何も考えずに1日早く来たから、今晩泊まる場所も決めてなかった。
その頃は、スマホなんてないからネットですぐに予約なんてできる時代じゃなかった
時代って言ってもそんなに昔話じゃないけど、発展は早いもんだとつくづく感じる。

駅前を眺めていると、目の前にホテルを見つけた。
とりあえず駅に近いし、ここに決めようと思った。
平日だし旅行シーズンでもないし、空いてるだろう。

予想通りとまではいかなかったけど、何とか部屋を用意できるとの事でチェックイン
シングルの部屋の窓からは、郡山駅が見える。

いろんな街へ仕事で行ったけど、その街毎に吹いている風の香りが違う。
ずっと住んでいると分からないものだけど、仕事ではなく、ココロがニュートラルな状態で
その街に初めて到着すると、風の香りの違いに気づく。

ベットに寝転んで、少しの間だけ この街の空を窓越しに眺めた。
澄んでいた。
今思えば、その時の自分の眼が凄く澄んでいたんだと思う。
初めて来た東北の香りを感じた感動の今と、明日あの人に会える期待に満たされたココロが
幸せすぎる1秒1秒を刻んでいた。

大人になればなるほど感動が薄れてきて、1年の長さが小学生時代に比べると明らかに短い。
あの頃は毎日が発見や感動が多すぎた。 大人になればなるほどその感動が薄れていく。
でもね、ここは本当にずっと大切にしたい事。
なぜ、感動は薄れるか。 色んなものを知りすぎた? それもあるかもしれないが
まだまだ知らない事もいっぱい有る、初めて見た風景なんていくらでもある。
自分で自分にフィルターをかけてしまっている気がする。

そう、素直じゃなくなった。

様々な経験や年齢が自分に素直になれなくなっている。
悲しい時に素直に泣けない。いや、泣きそうなんだけど、我慢。
我慢の理由はそれぞれあるが、見られたくない、 〜〜と思われたくない等
人目を気にする。
そういえば幼い頃は人目をあまり気にしない。
電車の中でも、映画館でも、バスの中でも、大きな声で話したり、気に入らないと泣いたり怒ったり。

制限されて我慢を覚えて、素直なココロにフィルターばかりかけてきた。
そのフィルターは年ごとに分厚くなって、このココロに届く頃には元の感情はかなり薄くなっている。

本当は自由ではないのだ。 生きていく上で、大人はそれなりに不自由なのだ。
特に感情面においてはね。

今日は本当に自由を感じてる、何からも束縛のない時を今、過ごしている。

そんな事を考えていると、窓の外は少し夕暮れ色に染まり始めていた。
少しこの街を歩こう。

少しだけ冷たい風が、この背中をふっと押す。
僕の何かを後押ししてくれるようだった。

仕事を終えて帰る人々の雑踏。初めて聞く方言。
いつもより音が耳に入ってくる。
この街で暮らす人々、絶対に会うはずのない人々。
今、この眼に写る人々は誰も知らない。 そして、誰も僕を知らない。
そんな中、たったひとつだけ掲示板に書いた言葉で、僕は君と出会った。

そして、遠くに離れていた繋がるはずの無い点と点は
今はもうほんの1km以内の距離まで近くにいる。

ホテルに戻って電話をした。
「いよいよ明日だね。 12時に郡山駅の新幹線改札だよね?」

今もう郡山にいるよ!って言いたくてたまらない気持ちになった。
そしたら今からもう会えるかもしれない。1日長く会える。 
だけど、その気持ちを無理やり抑えて言わなかった事を今でもよく覚えている。

「うん。 明日ね。 楽しみにしている。」

「気をつけて郡山に来てね。」

この事はその後も、ずっと君には打ち明けた事はなかった。
この世で僕にしか知らない、とても小さなひとつの嘘。

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月見草06

新幹線指定席
天気は快晴で、窓の外の風景もいつもより輝いて見えた。
ただ晴れていたからではないと思う。
特別な日だったからだ。

3時間ほどで東京に到着。
久しぶりの東京駅に少し降りてみたくなって
2時間ほど時間をつぶした。

昔はこの街に初めて来た時は、行くあてもなく辿り着いた感じだった。
帰る場所も行く場所もなくて、ふらついていた。
ネオンの色に自分を染め上げた。
信じていたのは自分の音楽と夢だけ。

あれから時は過ぎて、この街でも色々な出来事があった。
そんなことを考えながら、夜行バス乗り場の近くにあるカフェで
懐かしさの風に吹かれていた。

早く郡山に着きたい気持ちと、すぐに着かないで、この前兆をもっと楽しみたい自分もいた
今日、明日はすこしいつもより長い1日になってほしかったんだ。

理由は幸せな時間はすぐに終わることがわかっているから。
小さい頃楽しみにしていた夏休み。でも始まると結構すぐにおわっちゃうんだよね。

旅も始まる時よりも始まるまでが一番楽しい。
コーヒーを飲み終えて、また改札へ向かった。

郡山までの新幹線のチケットを購入した。

もうすぐだね。 君のいる街に着く。

短い短い物語が始まろうとしていた。
駅の待合室に設置のテレビから、ドラマのオープニングのテーマソングが流れ始めていた。

2時間もしないうちに郡山に着いた。 
改札を出た。 本当に来たんだと、現実を実感する瞬間。
目の前に広がる生まれて初めて見る風景、それが現実。

毎日同じ道を通う駅に、こんな感動はなくて
たまには知らない駅で降りる事も、ココロは欲しているのかもしれない。
一人旅ならではの、味 かもしれない。

朝からほとんど何も食べてなかった。興奮する気持ちで中枢神経も麻痺をしていたが
ようやく、空腹感が訪れた。
目の前に、昭和の香りがする定食屋さんがある。
地元のおばさんが定食を運んでいる。
東北の家庭にお邪魔して、ご馳走をいただけるそんな感じがしたので
この店に入る事にした。

僕の頭の中では勝手なドラマを作り上げる事がある。
定食を運んできたおばさんが僕に聞く
「おにいさん、旅行? どこから来たの?」
そこで僕は答える
「神戸からです。 でも旅行ではないんです。 会いたい人に会いに来ました。
 本当は明日なんだけど、気持ちがおさまらなくて今日来ちゃったんです。」

そんな勝手なドラマを頭の中で脚本を作っていたが、
現実はそううまくいかない。

おまたせー と一言。 そして ごゆっくりー と二言目。
まぁ そんなもんだろうと思いながら、定食をいただいた。
普通なのかもしれないが、特別な味がしたような気がした。

駅前の空を見上げた。

平日の午後。  東北 郡山の空。
もう少しだけ冬の香りがする。
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月見草05

11月1日

約束の日は明日なんだけど、サプライズで、、というより
1日すら待てなかったのが本音。

今日は合わないつもりだけど、1日早く郡山に行って、
君の住んでいる街を見たかった。
それと東北が初めてだったし、旅行とは少し違う
特殊な感覚での旅。 こんな機会って滅多にあることじゃない。
そんな不思議な感覚が、非現実的な空気に少し酔いそうになっていた。

もともと僕の体は、そのようにできている。
こんなことありますか? ない?
例えば、真夜中1時頃になって、少し無茶なことに憧れる。
日常の同じリズムじゃ物足りなくて、少しリズムを変えたくなる。
変拍子的な時間を過ごしたくなることはない?
いつも4拍子(安定)から今ここで3拍子に(少し不安定)に変化させることによって
いつもと違う感情や、ココロが踊りだすような刺激が与えられる。

ずっと4拍子だと、自分が今4拍子で歩いていることすら気が付かなくなる。
また、3拍子に変化することに恐れる。
どちらがいいわるいではなく、僕は変拍子を少し入れることで、
客観的に自分を見ることができる。
また、もう一つ、最大の理由は
幼いころの、目に見える物への愛情は感情で興奮していたい、
いつも新鮮な感情で対象物を見て、素直に感動するココロを忘れたくない。

風に揺れる木の葉や、君の髪の曲線 それに感動したい。
それは例え80歳になってもね。
感動をしていたい。

そんな俺なんです。

いま、僕にとってはどれだけ重要なことが起こっているか、わかるでしょ?
感動の毎日なんだよ。

そんな滅多にないココロの躍動が止まらなくて、こんな気持ちで新幹線のホームに立つ俺って
初めて新幹線に乗った小学校以来かなぁ。

掲示板には次発の東京行きが表示されている。
レールを眺めていた。 このレールの先 ずっとずっと向こうに、君がいる。
先発の新幹線は出発した。 この車内にも俺と同じような境遇の人が乗ってるのかなぁって
考えていると、間もなく到着する東京行きのアナウンス。

そっと目を閉じたら、秋の日差しがいつもより少し柔らかく感じた。

月見草04

「ゆうやくん 東北に来たことないんだぁ?。じゃあ2日郡山に来る?
 案内するよー 笑 無理はいえないけど、よければ遊びに来てね。お返事待ってます。」

なんてことない、平凡すぎる日常に少しだけ彩りがついた気がした。
単純なことかもしれないけど、そんなことでも人って何か目標見たいなものがあれば
急に目の前の道が明るく感じて、毎日の辛いことが楽しく感じられるんだよね。
そういうところって、やはり人が人に与える影響は大きい。 今になってそう実感している。

神戸から郡山まで。

地図を見た、大体はわかってたけど、遠いなぁ。
行くなら、どうやっていこう? 飛行機?新幹線?バス?
お金ないなぁ、、でも騒ぎ出しているココロを大事にしたいし、無理してでも行くか。。
俺って本当に先を考えない奴だとつくづく思う。
でもそれはそれで自分を客観的に見ている冷静な自分も実はいるんだよね。
そういう自分も大好きなんです。 型にはめない生きかた。

生き方なんで人それぞれで、他人が他人の生き方を決めるものではない、
自分で責任取れるならね。それでいいと思う。
僕はすでに家族はいないので、全部自己責任だし、
頼るところは1つだってないから、誰かに迷惑かけなければそれはそれなので。

決心するのに数分だった。 行こう。

秋も深まるように、このココロも少し君への気持ちが深くなっていきそうな気配がした。

返信した。

「2日行くね。すごく楽しみ。初めての東北。何時にどこに行けばいい?電話番号聞いてもいい?」

初めての東北が楽しみのように書いているが、これって本当の気持ちをオブラートに包んでるだけ
本当は? そりゃ君に会いたいってのが一番の目的に決まってるやん。

すぐに返事が届いた。

「なんかドキドキしてきたぁ ゆうやくんに会えるんだねー なんか本当に不思議な感じ。
 でも楽しみだよ! 気をつけて来てね。 じゃあ私の住所は郡山市、、、、
 電話番号は、、、、、 待ち合わせは郡山駅の改札ね。 12時でどう?」

真夜中 一人きりの部屋。
数日前までは、明日の光も求めていない毎日だったのに、
君の手紙が届いてから、こんなにも明日が来ることを楽しみに思えるなんて
思ってもいなかった。 これは本当に綺麗事じゃなく、君のおかげ。
若さだったかもしれないが、恋は人を善にも悪にも変えることができる魔法なのかもしれない。

新幹線で行くことにした。
あと、サプライズで前日から郡山に行く計画を立てた。 驚くかなぁ。 
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月見草03

そんな時、君からの返信メールが届いていた。

「ゆうやくん、ごめんなさい! ライブの日は岡山の方で仕事が入ったので神戸には行けない。。
 岡山から神戸は近いかな? 私は19時から21時まで舞台があるけど、間に合わないよね?? 泣」

僕は神戸生まれ、育ちは神戸と東京なんだけど、当時はまた神戸に戻っていた。
中心街の三宮という駅から少し遠いけど徒歩でも20分あれば帰れる距離。
国道2号線沿いのマンション。夜中でも車の音がうるさいけど、極度な寂しがりやの僕には
その音があるから安心できる。静かなところは苦手。

自分の過去の話になるけれど、中学1年生の時に両親は離婚し、母親に連れられて別の街へ行った。
しかしその半年後に母は別の男とある日突然、置き手紙と3千円だけ残して消えた。
その後1ヶ月はそこに住んでいたけど、家賃なんて払えないし、施設に入るのは嫌だったので
友人のお年玉の数千円を借りて、夜行バスで東京へ。
その日からずっと東京でなんとか生きてきた。
様々な人の助けがあって、いままで生きてこれた。
だからこそ、今度は誰かの役に立ちたいとは思っていたが、
まだまだ俺にはそこまでの余裕なんてなかった。
あの頃の心の傷というやっかいな完治しない病が、
夜の寂しさと恐怖、それが僕の心を圧迫しているので、音のない不安な夜よりも
やかましいくらいの音があるほうが、僕にとってはぐっすりと眠れる。

岡山かぁ、近くまで来てるなら 会えるといいなぁと思った。
そしてすぐに、もう一つのメールが騒ぎたてるように着信した。

「来月の2日から6日まで、すっごい久しぶりに休みなんです!(1年に数回だけの連休!)
 よかったらどこかで会いませんか?  ‥‥‥といっても、、ゆうやくんは忙しいかぁ。。」

不自然な感覚だった。
会ったこともない彼女から、さっそく会いたいなんて何かちょっと騙されているような気になった。
しかも、正直外見もまったく関係ないなんて自分に嘘はつけない。
合コンとかでも、自分をちょっと良いように見せようと、
「やっぱり、重要なのは外見より性格!」なんて言った事あるけど、 嘘だな、、それは。
そりゃあまりにもブ◯イクな人なら、ちょっと、、ね。

でも、ここで彼女に 写真送って とも言えないでしょ?
失礼な奴だし、付き合うとかそんな会話じゃないし、ただ俺のライブ見たいって言ってくれる人に
写真見せてよ。なんていうアホはいないよなぁ。

ライブの入場条件に 容姿端麗 とかあるわけないし。

でも、ここまで会いたいって言ってくれるのも何か裏があるのかも。
相手も僕の顔も知らないのに、よく会いたいって言えるよな。。
ひょっとしたら、実は男で俺を騙してるのかと色々なパターンを考えていた。
まずはメールの会話を増やそう、そのうちに何か見えてくるだろう。
返信した。

「今のところは、来月の2日僕もお休みなので、どこかで会えるといいですね。
 そういえば、みほこさんはどこに住んでいるんですか? お手紙には住所無かったし
 消印もよく見えなくて。 笑」

すぐに返信がきた。

「あっ、ごめんなさい! すっごく怪しい手紙ですよね。。ほんとごめんね。
 簡単に自己紹介します。郡山市に住んでいます。生まれも育ちも福島なんですよ。
 郡山ってどこかわかります?
 年齢は25歳で、ダンサーのお仕事です。あっ、写真も送ったので怪しかったでしょ?」

年齢も2つ下。
ダンサーという仕事にも少し珍しくて驚いたが、
全国回っている仕事だということに納得できた。
今と違って、あの頃はまだ個人情報とか、メールで騙すとかあまり無かった時代だから
そこまで怪しむってこともなかった。

えっ!! 写真!?

急いでその封筒を再度引き出しから取り出した。
見落としていた、、、写真が封筒の幅ギリギリで底に詰まっていた。

言葉にはあえて書きませんが、今ここで読んでくれてる皆さんにこの気持ちを感じ取ってください。
何にもない灰色だらけの空の雲の隙間から、一筋の光が差し込んできた。そんな瞬間だったって事を。

震えそうな指先で、何度も書き間違え削除しながら急いで返事をした。


「よかったらその日、生まれて初めての東北だし、郡山に行きたいかも」





 
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月見草02

君からの手紙を読んだときは
まだ君の事は全く知らなかった。
容姿も、何をしている人かもね。

その頃は「掲示板」というものが、
色々なジャンルでインターネットの世界で
複雑に人と人を繋ぎ始めていた。
まだ個人情報なども今ほど気にする事もなかった時代。

その頃僕は自分のオリジナルソングの宣伝やライブ活動の営業目的で、様々な掲示板に書き込んでいた。

ある日君からの返信が届いていた。

「今度仕事でそちらの方に行くので、ライブ行けたら行きたいです。」

その時はまだ特別な事は何にもなく
一人お客さんが増えて、ライブノルマ
一枚分の負担が減ったと思ったくらいだった。

急いで返事をした。

「下記のメールアドレスにお名前と枚数を書いてお返事下さい。」

音楽以外楽しみも感じない毎日を過ごしていた僕。
都会の光り輝く街とは対照的に、
その光に埋もれたまま、自分が輝ける場所が訪れる事をただ信じて、変化のない毎日を過ごしていた。

ただ生きていく為だけの、面白くないバイトを毎日こなして、明日の不安をかき消すように
バイトで知り合った友達と、毎晩出掛けてはアルコールで現実逃避をする。

新しい曲を書きたいけど、そんな毎日に何のエネルギーもなく、悪循環にスパイラルな上り階段を登っていた。光が届く場所までかなり遠回りだとは、わかっていた気がする。

実は、僕は最近まで大きなステージで仕事をしていた。
スポットライト浴びてね。毎回1500人満席のお客さん。

自分の音楽がやりたくて、僕はそこから逃げた。根拠のない自信で僕は自分で自分を舞台から引きずり下ろした。

光が届く場所にいたのに、また街の中に身を隠した。

不安と寂しさは、夜中になるとこの身体を蝕む。これは今でも変わらないままで、電気を消して寝る事は出来なくなった。

行く先を照らす光が消えていた。

そんな時、メールが届いていた。





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月見草01

「お互い仕事の忙しい中で、不思議と出会ってしまうなんて、ステキですよね。… … 」
届いた手紙。
最後に書いてある、1999年10月21日

1000年代が、まもなく終わる
過去最も輝いた愛と最も深い傷を
2000年代まで同時に残した想い出がひとつだけある。
今の時代より出会う確率が少ない時代、
生まれた時間も場所も違って、幼い頃は800kmも離れた所で別々に育ち、あの日偶然出会った。
それを運命と簡単に言えば気がすむかもしれないが、僕には命運という言葉がしっくりとくる。
この身体の全てが侵食されていた。
君は魔力があり、僕の魂を揺さぶり
喰い尽くした魔女でもあり、
輝きすぎるほどの3ヶ月を与えてくれた
天女でもあった。
それは君にとっては、日常。
僕の思い込みは、君を魔女にも変え
そして思い込みは天女にも変える。
作り上げた理想が、あまりにも君に近すぎて
真夜中の自由さのように、恐怖と解放感が
絶妙な君を作り上げた。
その見えない魅力が、ココロノスキマに
スッと秋風の心地よさのように吹き込んだ瞬間、僕の目は君しか見る事が出来ない魔力にかかる。
これからとんでもない事が起こる事は
知らない僕。

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