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月見草07

駅前のロータリーで立ち止まる。
何も考えずに1日早く来たから、今晩泊まる場所も決めてなかった。
その頃は、スマホなんてないからネットですぐに予約なんてできる時代じゃなかった
時代って言ってもそんなに昔話じゃないけど、発展は早いもんだとつくづく感じる。

駅前を眺めていると、目の前にホテルを見つけた。
とりあえず駅に近いし、ここに決めようと思った。
平日だし旅行シーズンでもないし、空いてるだろう。

予想通りとまではいかなかったけど、何とか部屋を用意できるとの事でチェックイン
シングルの部屋の窓からは、郡山駅が見える。

いろんな街へ仕事で行ったけど、その街毎に吹いている風の香りが違う。
ずっと住んでいると分からないものだけど、仕事ではなく、ココロがニュートラルな状態で
その街に初めて到着すると、風の香りの違いに気づく。

ベットに寝転んで、少しの間だけ この街の空を窓越しに眺めた。
澄んでいた。
今思えば、その時の自分の眼が凄く澄んでいたんだと思う。
初めて来た東北の香りを感じた感動の今と、明日あの人に会える期待に満たされたココロが
幸せすぎる1秒1秒を刻んでいた。

大人になればなるほど感動が薄れてきて、1年の長さが小学生時代に比べると明らかに短い。
あの頃は毎日が発見や感動が多すぎた。 大人になればなるほどその感動が薄れていく。
でもね、ここは本当にずっと大切にしたい事。
なぜ、感動は薄れるか。 色んなものを知りすぎた? それもあるかもしれないが
まだまだ知らない事もいっぱい有る、初めて見た風景なんていくらでもある。
自分で自分にフィルターをかけてしまっている気がする。

そう、素直じゃなくなった。

様々な経験や年齢が自分に素直になれなくなっている。
悲しい時に素直に泣けない。いや、泣きそうなんだけど、我慢。
我慢の理由はそれぞれあるが、見られたくない、 〜〜と思われたくない等
人目を気にする。
そういえば幼い頃は人目をあまり気にしない。
電車の中でも、映画館でも、バスの中でも、大きな声で話したり、気に入らないと泣いたり怒ったり。

制限されて我慢を覚えて、素直なココロにフィルターばかりかけてきた。
そのフィルターは年ごとに分厚くなって、このココロに届く頃には元の感情はかなり薄くなっている。

本当は自由ではないのだ。 生きていく上で、大人はそれなりに不自由なのだ。
特に感情面においてはね。

今日は本当に自由を感じてる、何からも束縛のない時を今、過ごしている。

そんな事を考えていると、窓の外は少し夕暮れ色に染まり始めていた。
少しこの街を歩こう。

少しだけ冷たい風が、この背中をふっと押す。
僕の何かを後押ししてくれるようだった。

仕事を終えて帰る人々の雑踏。初めて聞く方言。
いつもより音が耳に入ってくる。
この街で暮らす人々、絶対に会うはずのない人々。
今、この眼に写る人々は誰も知らない。 そして、誰も僕を知らない。
そんな中、たったひとつだけ掲示板に書いた言葉で、僕は君と出会った。

そして、遠くに離れていた繋がるはずの無い点と点は
今はもうほんの1km以内の距離まで近くにいる。

ホテルに戻って電話をした。
「いよいよ明日だね。 12時に郡山駅の新幹線改札だよね?」

今もう郡山にいるよ!って言いたくてたまらない気持ちになった。
そしたら今からもう会えるかもしれない。1日長く会える。 
だけど、その気持ちを無理やり抑えて言わなかった事を今でもよく覚えている。

「うん。 明日ね。 楽しみにしている。」

「気をつけて郡山に来てね。」

この事はその後も、ずっと君には打ち明けた事はなかった。
この世で僕にしか知らない、とても小さなひとつの嘘。

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