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月見草03

そんな時、君からの返信メールが届いていた。

「ゆうやくん、ごめんなさい! ライブの日は岡山の方で仕事が入ったので神戸には行けない。。
 岡山から神戸は近いかな? 私は19時から21時まで舞台があるけど、間に合わないよね?? 泣」

僕は神戸生まれ、育ちは神戸と東京なんだけど、当時はまた神戸に戻っていた。
中心街の三宮という駅から少し遠いけど徒歩でも20分あれば帰れる距離。
国道2号線沿いのマンション。夜中でも車の音がうるさいけど、極度な寂しがりやの僕には
その音があるから安心できる。静かなところは苦手。

自分の過去の話になるけれど、中学1年生の時に両親は離婚し、母親に連れられて別の街へ行った。
しかしその半年後に母は別の男とある日突然、置き手紙と3千円だけ残して消えた。
その後1ヶ月はそこに住んでいたけど、家賃なんて払えないし、施設に入るのは嫌だったので
友人のお年玉の数千円を借りて、夜行バスで東京へ。
その日からずっと東京でなんとか生きてきた。
様々な人の助けがあって、いままで生きてこれた。
だからこそ、今度は誰かの役に立ちたいとは思っていたが、
まだまだ俺にはそこまでの余裕なんてなかった。
あの頃の心の傷というやっかいな完治しない病が、
夜の寂しさと恐怖、それが僕の心を圧迫しているので、音のない不安な夜よりも
やかましいくらいの音があるほうが、僕にとってはぐっすりと眠れる。

岡山かぁ、近くまで来てるなら 会えるといいなぁと思った。
そしてすぐに、もう一つのメールが騒ぎたてるように着信した。

「来月の2日から6日まで、すっごい久しぶりに休みなんです!(1年に数回だけの連休!)
 よかったらどこかで会いませんか?  ‥‥‥といっても、、ゆうやくんは忙しいかぁ。。」

不自然な感覚だった。
会ったこともない彼女から、さっそく会いたいなんて何かちょっと騙されているような気になった。
しかも、正直外見もまったく関係ないなんて自分に嘘はつけない。
合コンとかでも、自分をちょっと良いように見せようと、
「やっぱり、重要なのは外見より性格!」なんて言った事あるけど、 嘘だな、、それは。
そりゃあまりにもブ◯イクな人なら、ちょっと、、ね。

でも、ここで彼女に 写真送って とも言えないでしょ?
失礼な奴だし、付き合うとかそんな会話じゃないし、ただ俺のライブ見たいって言ってくれる人に
写真見せてよ。なんていうアホはいないよなぁ。

ライブの入場条件に 容姿端麗 とかあるわけないし。

でも、ここまで会いたいって言ってくれるのも何か裏があるのかも。
相手も僕の顔も知らないのに、よく会いたいって言えるよな。。
ひょっとしたら、実は男で俺を騙してるのかと色々なパターンを考えていた。
まずはメールの会話を増やそう、そのうちに何か見えてくるだろう。
返信した。

「今のところは、来月の2日僕もお休みなので、どこかで会えるといいですね。
 そういえば、みほこさんはどこに住んでいるんですか? お手紙には住所無かったし
 消印もよく見えなくて。 笑」

すぐに返信がきた。

「あっ、ごめんなさい! すっごく怪しい手紙ですよね。。ほんとごめんね。
 簡単に自己紹介します。郡山市に住んでいます。生まれも育ちも福島なんですよ。
 郡山ってどこかわかります?
 年齢は25歳で、ダンサーのお仕事です。あっ、写真も送ったので怪しかったでしょ?」

年齢も2つ下。
ダンサーという仕事にも少し珍しくて驚いたが、
全国回っている仕事だということに納得できた。
今と違って、あの頃はまだ個人情報とか、メールで騙すとかあまり無かった時代だから
そこまで怪しむってこともなかった。

えっ!! 写真!?

急いでその封筒を再度引き出しから取り出した。
見落としていた、、、写真が封筒の幅ギリギリで底に詰まっていた。

言葉にはあえて書きませんが、今ここで読んでくれてる皆さんにこの気持ちを感じ取ってください。
何にもない灰色だらけの空の雲の隙間から、一筋の光が差し込んできた。そんな瞬間だったって事を。

震えそうな指先で、何度も書き間違え削除しながら急いで返事をした。


「よかったらその日、生まれて初めての東北だし、郡山に行きたいかも」





 
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